21世紀は協働の時代である。これからの建築士はこれまで以上に、社会の多様な領域の人々と出会い、相互の持ち味を出しあい、建築を豊かに育み、他領域も健やかにつつみこむ異分野協働(コラボレーション)が求められてくる。コラボレーションとは、互いの相違点を生かしあってより次元の高い創造をわかちあうことである。そこで求められる建築士像は、狭い専門性に閉じこもらずに、対話的出会いに心を開く「自己造形」に赴くことが求められる。建築士は異分野との主体間の多様な応答を通じて、在来的な「専門的自我」から「対話的自己」に変容、移行していくしなやかな専門家に変身をとげていきたい。建築士の自己の境界は多数存在するが、コラボレーションの達人になるためには、他分野との開放的関係をとり結び自己の境界の変化を促していくことが求められる。そうした新しい専門家像を、筆者は近著において「エンギニア」として提起した(拙著『私からはじまるまち育て―<つながり>のデザイン10の極意』風媒社)。「「エンギニア」とは、ヒトとヒトを結び「縁」づくり、モノ・ヒト・コトの多様なつながりの必要性と可能性を十分に説明できる「演づくり」、葛藤を力に変える「円」づくり、の三つの「エン」の力を高めてく(エンパワーメント)プロセスを楽しむ存在である。」
「エンジニア」は、ものごとを論理的に思考したり、精度の高い計算をしたり、緻密な設計をやりうる存在としてこれからも重要である。しかし、「エンジニア」は往々にして「杓子定規」「基準通り」「瑣末主義」などの固い思考の枠のなかにおさまる傾向もないではない。異分野との協働が必須となる状況の中では、次のような「エンギニア」の役割発揮が求められてこよう。
第一に、異和感を味方にするセンスとスキルである。異分野とのコラボレーションは、異なる二元がめぐりあう偶然をもたらす。それは新しい始まりとしての異和感をもたらす。エンギニア的建築士は、未経験の不安を引きおこす「偶然に予期せぬものを発見・出会う能力」としての「セレンディピティ」のセンス、即ち「ピンチをチャンスに変える」「トラブルをエネルギーに変える」しなやかな感覚を鍛えていくことが求められる。
第二に、他分野の主体に建築専門を伝える際に、ナラティブに語りかけるセンスとスキルである。エンジニアは知識や技術や提案を「説明」しがちである。説明すると上意下達的、一方向的に受けとめられがちであり、相手の思考回路は開かれにくい。しかし、ナラティブに、物語り的にやりとりすると、相手側は状況の中の主人公になった気分で自由な発話とアイディアが投げ返されてくる。「説明」は事態を「処理(ディスポーズ)」するにとどまるが、「物語り」は課題に対して「提案(プロポーズ)」する状況を引き出す可能性をひらく。異分野協働におけるナラティブ・アプローチは、客観的論理のインガ(因果)と主体間交流によるエンギ(縁起)の両面の接点を見出し、建築創造に思いがけない力を生みだす。エンギニア・建築士をめざして―インガとエンギの相乗デザイン力を磨く機会を高めよう。
(『建築士』平成20年4月1日発行(毎月1日発行)第57巻 第667号)