住民主体のふるさと再生復興計画づくりをすすめていく際、最も重要なことは、住民の「ホンネトークの場づくり」である。
ホンネトークの最重要な中味は2つあると、小杉学君(愛知産業大学専任講師)の指摘は明解である。第1に、津波対策・原発対策関連での住宅立地計画。それは防災上移転か存続かの誠にきびしい決断を迫られる問題。第2は何れの場合にも地域の記憶とコミュニティの継承と再創造を反映した住宅・集落・まち再生計画。今度の復興計画では、防災とコミュニティ再生の両立が課題である。
ところで「ホンネトークの場づくり」をめぐって、仙台で自ら1週間避難所暮らしを体験した田澤紘子さん(仙台市市民文化事業団勤務)の便りによれば、次のように語られている。
避難所はプライバシーゼロの空間であったが、プライバシーがないからこそ、朝なかなか起きない高齢者に「大丈夫かーーー!」と声をかけたり、「なぜ、自分はここにいるのか」と問わず語りに生い立ちから現在までの話を聞いたこと等々、自然発生的な縁側的空間(機能)がそこに成立している由。「不安を紛らわすため、経験を共有したいため、希望を持ちたいため」の様々な理由から、今は「誰かと話をする場」が強く求められている由。まだ本格復興の具体的な話は時期尚早かもしれないが、今は身内ではなく、外部の人だからこそ話せることもあるような気がする、と彼女はいう。
対話も段階的に、「メンタルケアのための対話」(救助・救済・復旧時)から「住まい・集落・まち再建に向けての対話」(復興・発展時)へと、同じメンバーによって計画的になされることが、住民にとってもコーディネーターにとっても大事なのでは、と田澤さんの指摘は鋭い。外なる支援者と内なる地域住民の息の長い対話の場づくりが育まれるようなしくみづくりが待たれている。
なぜならば、本格復興の段階での調査・計画・設計の創造的プロセスにおいて必要となることは、地域・住民のかけがえのない思い出の中にある今後とも継承・再創造したい価値を把握することであるからである。外なる支援者・ファシリテーターが住民達のそれを深く知覚するということは、モノは一網打尽にされたが、人々の記憶にとどまっている色や匂いや感動や人々の息づかい等に、ホンネトークを通じて触れることである。
「他者を深く知覚(パーセプション)するというのは、色があり触知できる他者の表面を、生理的、生物的な深みの表面として見る完全な把握(パー・セプション)を意味している。」(アルフォン・リンギス著、野谷啓二訳:何も共有していない者たちの共同体、洛北出版、2006年、p.44)